一方、アメリカのベンチャーキャピタルは?
一方、アメリカにはベンチャーキャピタルが600社以上あるとされるが、そのほとんどが独立系のベンチャーキャピタルである。また、アメリカのベンチャーキャピタルは、ジェネラルパートナーとリミテッドパートナーでファンドが構成される点は日本と同じであるが、その構成員がまったく違う。
一般的にアメリカのベンチャーキャピタルは複数のプロのベンチャーキャピタリストで構成され、中には自ら出資してジェネラルパートナーとリミテッドパートナーを兼務するケースもある。従業員数も、大きくても20-30人程度であるとされ、中にはほんの数人で運営されているものもある。
つまり、アメリカのベンチャーキャピタルの本質は、儲かるビジネスを貪欲に探す投資家の寄り集まりである。ベンチャー投資で一儲けしようという仲間同士が集まって共同でカネになるビジネスを見つけ出し、それに投資をして得たリターンをみんなで山分けする、といったイメージである。自分たちは利益を稼ぎ出すために出資者に雇われており、どこにどう投資しようと自分たちの勝手だという意識が根底にあるのだ。
このように、一攫千金を狙う山師の集団と言うべきアメリカのベンチャーキャピタルと、リスクテイクと損失が絶対に許されない保守的投資家の筆頭と呼ぶべき日本の機関投資家の「門番」と呼ぶべき日本のベンチャーキャピタルとは、言葉は同じであるが、まさしく似て非なるものなのである。このことを理解せずして、我が国のベンチャーキャピタルはアメリカのベンチャーキャピタルのように積極的にシードベンチャーに投資しないので怪しからんと非難するのは、まったく的はずれであると言うしかない。日米のベンチャーキャピタルとは、たとえは悪いが、街(マチ)金と都市銀行ほどの違いがあるのである。
「貪欲」で「慎重」なアメリカのベンチャーキャピタル
なお、アメリカのベンチャーキャピタルがシードベンチャーに普通に投資するからと言って、すなわちシードベンチャーに簡単にカネを出すということにはつながらない。逆に、アメリカのベンチャーキャピタルは、投資の判断には極めて慎重であると言われる。
例えば、あるアメリカのベンチャーキャピタルの場合、年間1500社からビジネスプランを受け取り、社内で審査して100社に減らす。そして、担当のキャピタリストが精査し、最終的に投資するのは10社以下になるという。また、経営者に対する審査も厳しく、過去の実績や人間性、取引先における信用等が、ありとあらゆる方法で調査される。
このように、貪欲と慎重という、一見したところ相反する特徴を兼ね備えたのがアメリカのベンチャーキャピタルであると言えよう。一方、日本のベンチャーキャピタルの本質を同様に言えば、保守性と慎重、とでもなるのであろうか。双方ともに慎重であることに変わりはないが、一方はハゲタカのように貪欲で、一方は、まるで毒にも薬にもならない中年の銀行員のように、恐ろしく保守的である。一方がカネになりそうな儲け話を血眼で探している一方、他方は預金者から集めたカネを必死になって守っている。
もしあなたがものすごく有望なビジネスアイデアを思いついたとして、話を持って行くべきは果たしてどちらであろうか。カネになりそうだと判断するや、一方は「親身」になってあなたの話を聞いてくれるであろう。そして、場合によっては「オレもひとつ手伝ってやろうか?」と、一緒に事業の立ち上げまで協力してくれるかもしれない。
しかし、もう一方に話を持ち込んだとしたら、とりあえず話は聞いてくれるかもしれないが、恐らく次のような返事が来るであろう「面白そうですね、とりあえず社内で検討してみますので、事業計画書を提出していただけますか」。「社内で検討する」というその言葉を信じ、馬鹿正直に事業計画書を提出したとしても、社内で検討されることはまずないであろう。よしんば本当に検討されたとしても、実際に投資がなされることは、結局のところあり得ないであろう。
なお、アメリカのベンチャーキャピタルの特徴は、我が国で活躍中の米系投資銀行にも、そっくりそのまま当てはまるかもしれない。
例えば、ゴルフ場再生をお家芸とするG社や、派手な不動産再生事業で高名を響かすS社などをみていると、まさに貪欲と慎重を地でゆく感を強く覚える。前にG社の幹部とゴルフをご一緒した際、同社の企業買収戦略や投資戦略を拝聴したが、「カネになりそうなものなら何にでも投資する」といったスタンスであった。ほとんどハゲタカそのものであると思ったが、聞いていた当方は、不思議と悪い感情は覚えなかった。むしろ、あっぱれとでも言うような、一種痛快な感じさえ覚えた。
日本のベンチャーキャピタルに欠如しているのは、とどのつまりこのような「ハゲタカ的性格」であると思われる。カネになりそうなものならシードであろうが何であろうがとりあえず検討してみて、実際に儲かりそうなら相当に投資をする。駄目ならさっさと引き上げ、逆にもっと儲かるビジネスにどんどんお金をつぎ込む、というのがアメリカのベンチャーキャピタルなのである。(続く)
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