聖書の「原本」における神様の名前
では、そろそろこの辺で聖書の原本に神様の名前は何と書かれているのか見てみることにしよう。ところで、前に私は「聖書に原本は現存しない」と書いたが、正しくは、「一冊の本としての原本はないが、断片的、部分的な原本の写本は世界中に現存する」とするのが正しい。つまり、完全な一冊の書物としての原本はない(ただし、一部の70人訳のようにほぼ完全なかたちに残されているものもある)。
しかし、聖書には過去から現在に至るまで世界中に断片的な写本が残されており、それを、ジグゾーパズルのように組合わせることで一冊の書物としての内容を保持してきた。基本的に聖書とりわけ旧約聖書は、一書ごとにスクロール(巻物)に表されてきたので、それらの断片をつなぎ合わせればひとつの書物となる。なお、世界中で見つかった写本の組み合わせによる聖書の原本が、結果的にひとつの書物としてまとめられ、内容的に一致しているということは、単に偶然の一致ではすまされないと私は思う。
さて、聖書のうち、旧約聖書の原本は主にへブル語(一部アラム語)、新訳聖書の原本はギリシア語で書かれている。アブラハムの神、つまりキリスト教で言う父なる神は主に旧約聖書に書かれているので、原本には何と書かれているか見てみよう。
へブル語聖書原本のいわゆるマソラテキストには神を表す言葉がたくさん出てくるが、最も多いのがで、6,828回登場する。
これは、アルファベットに置き換えるとYHWHとなるが、ギリシア語ではΤετραγρ?μματον、日本語では神聖四文字と呼ばれる。一般的にはテトラグラマトンと呼ばれ、これがもともとの神のお名前(のひとつ)であるとされる。なお、このテトラグラマトンは、今日のほとんどの英語の聖書では"The Lord"、日本語聖書では「主」と訳されている。
なお、このYHWHという文字だが、これをどのように発音するのかについては、実のところ誰もわかっていない。そもそもユダヤ人を筆頭とするアブラハムの神を信仰する人達にはいわゆる「十戒」というものがあり、その中で主の御名を「みだりに唱えてはならない」と厳しく戒められているため、この文字をその文字通り発音することが、とりわけユダヤ人にとってはバビロン捕囚以後は、とりわけ厳しく諌められるようになったとされる。なお、現代の聖書学者や言語学者の間においては、この神聖四文字は多分「ヤハウェ」「ヤーウェ」「ヤハヴェ」と発音するのではないかと推定されている。
神の名前をみだりに唱えることを堅く禁じられてきたユダヤ人達は、YHWHをそのままストレートに発音することを恐れ、「アドナイ」 という呼称を用いてきた。やがてキリスト教が誕生し、キリスト教の神学者達がこのYHWHを彼らのローマ字にどのように置き換えるかを議論した中で、まず(Yodh, Heh, Waw, Heh)が当初は不正確にJHVHと置き換えられた(後に正しく改められてYWHWとなった)。やがて16世紀のイギリスでこのJHVHに別のへブル語の神という単語をローマ字に置き換えたELOAHの母音の(e,o,a)が付けられてJeHoVaHになり、つい最近まで世界中のキリスト教会で一般的に使われることになったとされる。
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