不足する「CFO」という人材

私はこれまでに、相当な数の企業経営者から資金調達に関する相談を受けてきた。中にはベンチャーキャピタルからの資金調達について相談されるケースが少なくなかった。最近は、さすがに「ベンチャーキャピタルから調達したお金は返済しなくてもいいのか?」といった類の驚くべき質問を受けることは少なくなってきたが、それでも、自社のバリューを客観的に把握し、その上で資金調達を行うというオーソドックスなファイナンスを志向するケースは未だに少ない。
その最大の理由として考えられるのが、我が国の企業経営者のファイナンス知識の不足、さらには経営者の知識不足を補うプロの財務担当者、すなわちCFO人材の不足である。


CFOとは、改めていうまでもないが、Chief Financial Officerの略である。アメリカでは、経営執行を専門家に委ねる企業統治が一般的で、業務執行におけるトップ経営者はChief Executive Officer、人事担当役員はChief Personnel Officer、技術担当役員はChief Technology Officer などと呼ばれる。
取締役の選任は、我が国においては株主総会で決議され、代表取締役を取締役会で選任するが、これはアメリカのBoard of Directorsの制度を踏襲したものである。
Board of Directors におけるDirectorが我が国の取締役に相当し、Chairman of the Board が取締役会を取り仕切る。そして、選任されたDirectorsが日常の業務執行をOfficersに委任するかたちをとる。そのため、アメリカでは、Officerが事実上の組織および部門のトップとして機能する。


アメリカにおけるCFOは、企業におけるファイナンス全般に関する責任を負う。資本政策の策定から資金調達、上場準備等、ベンチャー企業においては特に、株価対策から株主対策まで業務は広範囲に及ぶ。そのような業務を行うCFOには、それを行うにふさわしいスキルと経験を持ったプロフェッショナルな人材が就任する。


ところで、我が国で一般的にCFOというと「それは財務担当役員のことか」という質問が出されるケースが多い。「財務担当役員」の定義は広いが、当たらずとも遠からずといったところかも知れない。
我が国においても、トヨタ自動車や松下電器などに代表されるように、優良企業とされる会社の多くは、財務が抜きんでて優れている。戦略立案、営業、マーケティングを企業におけるオフェンスとするならば、財務は企業におけるディフェンスとして考えられるであろう。サッカーと同様、オフェンスがいくら強くても、ディフェンスが弱ければ、試合に勝つことは出来ない。(続く)



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